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その他の情報 Ⅰ、Ⅱ、

徐々に減薬 副作用を抑制 臨床研究で成果 統合失調症

2014年2月4日

PK2014020402100062_size0.jpg抗精神病薬などの向精神薬の減量に成功した患者を診察する岩田仲生さん=愛知県豊明市の藤田保健衛生大で 世界標準と比べて日本では、統合失調症の患者に多種類の抗精神病薬が多量に使われ、副作用の弊害が問題になっている。この反省から、薬の減量法が臨床研究され、時間をかけてゆっくり減らせば、より少ない量で症状を抑えられることが分かった。だが、新年度の診療報酬改定作業で、急激な減量を助長しかねない案が浮上。「体調を崩す患者が続出してしまうのでは」と懸念が広がっている。(林勝)
 抗精神病薬四種、抗不安薬五種、抗うつ薬二種。名古屋市内の四十代の男性が一年前まで服用していた薬だ。約十年前から幻覚や妄想に襲われ、統合失調症の治療を続けてきたが、処方される薬は増え続けた。副作用で体を動かす意欲が失われ、「いつもふらふら状態」で、日常生活がほとんどできなかったという。
 男性の家族は、藤田保健衛生大(愛知県豊明市)の岩田仲生(なかお)教授(精神神経科学)に相談。岩田さんは、まず抗不安薬と抗うつ薬の必要性を疑い、処方を中止し、抗精神病薬を一定量ずつゆっくりと減らした。男性は現在、抗精神病薬一種と少量の睡眠導入薬で症状をコントロール。副作用がほぼなくなり、「また仕事をしたい」と職業訓練に通っている。
 薬にはメリット(期待される効果)と同時に必ずデメリット(副作用)がある。抗精神病薬は妄想や幻覚を抑える効果がある一方、眠気や体重増加、低血圧、めまい、便秘などの副作用も幅広い。症状を抑えるのに必要な薬の種類と量が分かれば、それ以上の薬は不要のはずだ。
 しかし、症状を薬で制御するより「副作用で患者の活動そのものを、抑え込んでしまう問題がある」と岩田さんは指摘。大量の薬で患者の生活が破壊され、社会復帰もできず、生命までも脅かされる。
 そこで適切な減量法を探るため、厚生労働省の委託を受け、岩田さんが代表を務める臨床研究が二〇一〇年から三年間実施された。全国五十五の精神医療機関を対象に、多剤を服用している統合失調症患者百六十三人の協力で、薬を減量する、しないの二グループに分けて経過を比較。その結果、減量しても病気への効果は変わらなかった。
 ただ、前述の男性のように大幅に減量する症例を集めるのは難しく、副作用の軽減を証明するデータはまだ得られていない。岩田さんは「減薬で症状が悪化しないと分かっただけでも大きな前進」と語る。
 この臨床研究を基に、国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)は昨秋、医師向けの「減量法ガイドライン」を発表し、普及に努めている。
◆診療報酬の改定作業で急な減量の助長懸念
 新年度診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会(中医協)の方針が、精神医療関係者に波紋を広げている。中医協は抗精神病薬のほか、抗うつ薬や抗不安薬などを含む向精神薬の使用を適正化しようと、「通院・在宅精神療法」の診療報酬を、多剤処方の場合に減算する方向を打ち出した。これに対し、日本精神神経学会や薬の減量を主導する医師らが懸念している。
 処方を適切に見直すには、時間をかけて徐々に薬を減らす必要性が臨床研究で示されたばかりだ。しかし、通院患者を受け入れる多くの医療機関は、それを十分認識せず、診療報酬の見直しに応じて安易に薬を減らす恐れがある。
 精神薬理学が専門で、臨床研究に参加した鳥取医療センター(鳥取市)の助川鶴平副院長は、「多剤の服用に適応した患者の薬を急に減らせば、症状の悪化は避けられない」と警鐘を鳴らす。在宅で生活していた患者が不適切な減薬で症状が著しく悪化し、入院に至るケースも予想される。
 助川さんはこれまでに、抗精神病薬の多剤大量投与では、さまざまな副作用のために、患者の死亡リスクが高まる可能性を訴えてきた。「減量法ガイドライン」の作成時には、薬の特性に応じて減量の速度を変えるよう求めた。「薬によって患者の生活の質や生命が脅かされてはならない」と強調する。適切な減薬に導くための制度設計が求められている。