催眠が心に働くという現象を、脳への働きかけとして捉える必要があると思っています。
脳の働きには、理性的処理と感情的処理があります。
これからの催眠療法は、何かの心の病や精神的問題が生じた時に、理性に働きかけるカウンセリング(心理療法)とともに、感情領域に働きかけて修正する催眠暗示が必要です。
表現を変えれば、意識される理性領域と、意識されていない無意識領域の情動(感情)の修正において、特に無意識領域に働きかける手段として活用する価値と効果が素晴らしいのです。
無意識が変われば、意識も変わります。
心の問題(心の病や苦痛)を作り出す要因として考えられるのは、生育環境と遺伝としての性格です。
現在の精神状態に影響を与える”心の傷”とは、幼児期からの生活の中で受けてきた受動的なトラウマ環境だけではありません。
過去に自らの決断によって選択した経験であっても、それが人に語り難い過ちや恥と感じている場合には、そうした後悔が“心の傷”となって大きく人生に悪影響し続けていることがあります。
実際に人の人生は、過ちに満ちているともいえます。
私たちは、そうした過ちを気付くたびに修正し生きています。
しかし、後悔が深い場合は意識にのぼらない領域に抑圧してしまうことがあります。
それが、無意識への記憶の抑圧なのです。
そうした勝手に処理される脳機能によって、過去の経験を日常的に思い出すことなく過ごしていても、現実は無自覚のままに影響を受け続けている場合もあります。
このような抑圧された無自覚のトラウマからの悪い影響は、生きるうえにおいて無視できないのです。
人生をより良いものにするためには、人生に無自覚に働きかけている無意識に潜むトラウマを意識化して、その受動的または能動的なトラウマ記憶を抑圧しておく必要がない単なる記憶に変える必要があります。
トラウマがらみの情動記憶を、単なる記憶に変化させ、悪影響がない状態に変えるには、過去の記憶を客観的に認識しなおす必要があります。
退行催眠療法によって、意識から遠ざけられている当時の精神状態や環境を客観的に追体験することで、今の自分にとって、過去の状態を苦痛の感情反応として感じない単なる記憶に変えることができます。それは適切なカウンセリング(心理療法)と催眠暗示によって実現します。
また、自己の生まれ持った性格傾向や、ストレス対象に対する認知の修正を心理療法として理性的に処理すると同時に、当時の精神的苦痛の情動反応を催眠性トランス状態で苦痛を感じない過去の思い出へと変容させることが理想的なのです。
過去の思い出は、良きにしろ悪しきにしろ、自分自身の人生の歴史です。
より良き人生の実現のためには、自己の歴史は、どんなに苦痛や後悔があったとしても、客観的に過去を振り返り学ぶことができる存在に位置付ける必要があります。
心を正しい状態へと修正する事で、心のあらゆる問題が改善され、人生という航海に正しく最適な舵取りが出来るようになるものです。
脳の活動が心を生み出すこれからの催眠療法は、精神論的な視点で心を変えようとするのではなく、催眠暗示が持続的に受け入れられる心の環境づくりを伴いながら無意識領域に如何に働きかけるかという能力が重要だと思っています。
そのためにも、人間の心というものを、抽象的概念のみでとらえるのではなく、脳科学の知識や性格に絡んだ遺伝的視点で個々の心の状態を判断しながら実施する催眠療法の必要性を強く訴えたいと思います。