NY大、「FoxG1」遺伝子がヒトの大脳の回路形成に重要であることを解明 [2012/06/21]
ニューヨーク大学は、進行形の精神疾患であり、知能や言語、運動能力の発育に遅れが見られる「異形レット症候群」の原因と考えられている遺伝子「FoxG1」が、大脳の回路形成に大きな役割を持つことを明らかにし、この難病の治療法の可能性に新たな道を示したと発表した。

成果は、ニューヨーク大医学部の三好悟一博士らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間6月21日付けで米学術誌「Neuron」オンライン版に掲載された。

近年のヒト遺伝子解析における知見から、異形レット症候群の患者ではFoxG1遺伝子が欠損していることが確認済みだ。また異なる症状の、てんかん、知能発育不全、及び言語障害を持つ患者では、レット症候群の時とは逆にFoxG1遺伝子座が重複する遺伝子過多の症例が見つかっている。

これらのことから、FoxG1遺伝子量が減少しても増加しても、大脳が正常に機能発達できなくなると考えられているという。

今回、三好博士らは、それらの疾患の原因遺伝子のFoxG1が大脳の機能発達にどのような役割を持っているのかを明らかにするため、発生期に大脳皮質が形成されていく過程に着眼した。

そして、発生期の細胞の移動中にFoxG1遺伝子の発現量がダイナミックに増加及び減少していることを発見し、このFoxG1遺伝子の増減が大脳の正常な構築、さらには正常な脳機能の獲得に重要な役割を担っていることを明らかにした形だ。

正常な大脳は、6層からなる層構造をしている。大脳の発生期では、神経細胞の元となる「神経細胞前駆体」は、生まれた場所から自分が最終的に収まるべき正しい層へと長距離の移動を行う。

その移動中、神経細胞前駆体が正しい層にたどりつく前段階において、一過性に、細胞体が細長い形から星型の形状に変形することが知られている。これは「多極性形体」と呼ばれるものだ。この多極形態の期間では「軸索」の伸長や複雑な移動様式が観察されているが、皮質形成の前段階であるこの期間の重要性は未だ明らかにされていない。

三好博士らは、この多極形態期間の前期においてはFoxG1遺伝子の量が減少し、逆に後期においては増大することを発見。この前期のFoxG1減少のステップに異常があると、多極形態前期から後期への移動がスムーズに起こらず、皮質層への移動が大きく遅れてしまう。

その結果、本来4層の神経細胞に分化するべきはずのものが、2層3層の神経細胞に分化し、大脳で異なる役割を果たす細胞に置き換わってしまうことがわかった。

このように多極形態の前期におけるFoxG1遺伝子の減少は、皮質細胞の位置決定、さらには神経細胞の機能獲得に重要な役割を果たす。その一方で、多極形態後期におけるFoxG1遺伝子の増大にも非常に大きな役割があることを明らかにした。

多極形態の神経細胞前駆体がFoxG1を増大できない条件においては、皮質層に細胞が一切移動していくことができない。そのために皮質直下に細胞が留まり続け、さらには多極形態後期から前期の状態への退行が起こることが判明した。

以上から、大脳の層構造が形成される過程において、神経細胞前駆体が移動中に採る多極形態期間には大変重要な意味があり、また前期でのFoxG1遺伝子の減少、後期でのFoxG1遺伝子の増大が共に重要な役割を果たすことが発見されたのである。

これらの研究成果より、FoxG1遺伝子の異常により引き起こされる多極性神経前駆体の変質が、さまざまなヒト精神疾患の原因である可能性が強く示唆されたと、三好博士らは述べている。


多極形態期間におけるFoxG1遺伝子の増減が、大脳の回路形成に影響を及ぼす