MSmark&logo m.png

05

その他の情報 Ⅰ、

インタビュー 医療維新スクリーンショット 2014-01-18 23.36.34.png
薬の副作用、遺伝子検査で回避 - 久保充明・オーダーメイド医療実現化プロジェクトプロジェクトリーダーに聞く◆Vol.2
薬剤関連遺伝子の臨床研究進む
2014年1月15日(水) 聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)

――「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」の第2期では、薬剤関連遺伝子の臨床研究も開始されたとのことです。

 ゲノムの情報を臨床で生かす場面としては、まず薬剤の使い分けが挙げられます。薬の効果を見るには、ある程度の期間が必要ですが、副作用は薬を使い初めてからかなり早い段階で出るため、情報を取りやすい。薬の副作用については、臨床研究が既に3つ動いています。

 一つは、抗てんかん薬のカルバマゼピン。薬疹を起こすか否かに、「HLA-A*31:01」という遺伝子が関係しています。薬疹を起こす人の約6割がその遺伝子を持っており、この遺伝子を持つと薬疹のリスクが9.5倍に高まります。かなり強いバイオマーカーなので、まずHLA-A*31:01の遺伝子検査を行い、陽性者は他の薬を使ってもらうという臨床研究を、2012年1月から開始しています。


久保充明氏は、「ゲノム研究を臨床に生かすためには、オールジャパンで進めることが必要」と述べ、医師の理解と協力を呼び掛ける。
 二つ目は、ワルファリン。ワルファリンに関係する遺伝子はかなり以前から分かっていましたが、遺伝子型を測定して、ワルファリンの維持量を決めるのがいいかどうか、いまだ結論が出ていません。世界中で、RCTが行われており、2013年にもNEJMに2つの論文が出ています。1つは遺伝子型を測定して、維持量を決めた方がいいというデータ。もう一つは、遺伝子型を測定しても、ベネフィットがないという結論です(『抗凝固薬、遺伝子検査は必要か』を参照)。ただ、抗血栓薬については、新薬がたくさん出ているので、実臨床の中で、ワルファリンを新規に使う患者さんは減っている現状があり、ワルファリンの臨床研究も2012年1月から始めていますが、登録患者数は伸び悩んでいます。

 三つ目が、転移・再発乳癌に関する、タモキシフェンの臨床研究です。約50の病院が参加しており、2013年1月から開始しています。我々のレトロスペクティブの研究では、乳癌の転移・再発予防目的で、タモキシフェンを5年間服用している患者さんにおいて、CYP2D6の遺伝子型で転移・再発率が違うというデータが出ています。しかし、米国で行われた2つのRCTでは、CYP2D6は関係しないという結果です。ただ、2つのRCTはサンプル数が少ない上に、乳癌組織中のDNAを用いている。血液のDNAではないので、遺伝子型を正しく見ていない可能性があります。また我々のデータも、過去に遡って見たデータなので、転移・再発乳癌の患者さんを対象に、タモキシフェンとCYP2D6の関係を前向きに調べていく予定です。

――第3期でも、同様に薬剤関連遺伝子の研究は続けていく。

 はい。いろいろな薬剤について、基本は副作用を中心に、関連遺伝子に関する研究を進めていく予定です。遺伝子検査による薬の使い分けと言うと、分子標的薬を想起される方も多いでしょう。実際、さまざまな新薬が出ていますが、分子標的薬が対象とする患者さんの数は非常に少ない。癌では、従来の抗癌剤の治療を受ける患者さんが大半であり、これらの薬剤関連遺伝子の研究を行います。

――11月末の日本肺癌学会総会では、分子標的薬関連の数多くの演題が発表されていました。

 肺癌は、分子標的薬が多い分野であり、東大の間野先生(編集部注:東京大学大学院医学系研究科生化学・分子生物学講座細胞情報学分野教授)が、ALK 融合遺伝子を発見したことも大きい。肺癌の組織を採り、ゲノム異常があるか否かを検査し、異常があれば分子標的薬を使うという考え方です。こうしたプロセスは、一般の先生方にとっては、癌の病理組織検査と同じ感覚なので、受け入れやすいと思うのです。

――イレッサ(一般名:ゲフィニチブ)も、臨床研究が進み、EGFR遺伝子変異陽性の場合に効果があることが分かり、使用が限定されるようになった。

 グリベック(一般名:イマチニブ)、ハーセプチン(同:トラスツズマブ)、イレッサがあり、分子標的薬は、長年の積み重ねを経て、今のような遺伝子検査の体制になっています。

 それ以外の薬のファーマコゲノミクスはこれからです。「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」では、何らかの抗癌剤を使ったデータが1万3000人分あり、解析を進めており、幾つかのバイオマーカーの候補が見つかっています。現在、癌の診療を行っている病院と連携して臨床研究を進めたり、既存のデータの詳細な解析などを通じて、本当に抗癌剤のバイオマーカーになるか否か、確認作業を進めているところです。薬の副作用や効果に関係する遺伝子を見つけて、臨床の現場で使えるものを増やしていく。それがこれからの課題です。

 ただ、こうした研究を進める場合、「薬を使った人」の中で、「副作用が起きた人と、起きていない人」「効果が出た人、出ない人」を見ていくので、一つの薬剤に限ると、患者さんの数がものすごく少ない。そもそも今、発売されている薬は、治験を通っており、副作用が少ない。副作用が多い薬は、治験のフェーズ1や2の段階で、ドロップアウトしているわけです。ある一定レベル以下しか、重篤な副作用は出ない。例えば、スタチンによる副作用の横紋筋融解症を探しにいくと、高脂血症自体は5万3000人くらいの登録があるのですが、スタチン投与後に横紋筋融解症を発症しているのは5、6人程度。

――それだけ稀な副作用でも、患者さんにとっては重要であり、副作用などに関連遺伝子を同定する意義は大きい。

 はい。だから、薬剤に関係するゲノム研究は非常に重要であり、進めないといけない。ただ、重篤な副作用については、相当数の母集団がない限り、解析できないわけです。そこが研究を進める難しさです。

 皆さんからすると「20万人分のバイオバンク」は非常に多いように思うかもしれませんが、20万人分では足りなくなってきます。だから第3期で10万人分を追加します。さらに、今はバイオバンクだけに頼らないで、臨床医が困っている薬剤の副作用については、日本全国の医師に声をかけて、患者さんのサンプルを集めて、ゲノム解析を進める取り組みも始めています。

 ゲノム研究を臨床に生かすためには、オールジャパンで進めることが必要であり、そのためには、医師の理解と協力が不可欠なのです。

――薬の関連では、新薬開発につなげる動きは。

 病気の発症メカニズムが分かれば、ゲノム創薬につながるという考え方は、2000年前後からあります。しかし、ゲノム解析で分かってくるのは、機能が良く分からない遺伝子がほとんど。しかも、一つの病気に関係するのは1つの遺伝子に限らないことが多い。

 ゼロから新しい薬を作るというより、「ドラック・リポジショニング」に関係する情報が、GWASの成果として一番、出るところだと思います。例えば、ある疾患で遺伝子変異が見つかった場合、その遺伝子をターゲットとした薬が、別の病気のために開発されていることがあります。「この薬は、癌の適用で今、フェーズ2だけれども、この疾患にも効くのではないか」という発想になってくるのです。

――では、疾患関連遺伝子の研究はどのように進められているのでしょうか。実臨床に結び付いた例はあるのでしょうか。

 まだないです。それには理由があります。今、ゲノム研究で用いられているGWASは、病気になった人とならなかった人を比較し、病気に関係する遺伝子を見つける手法です。つまり病気の発症に関係する遺伝子、病気のなりやすさ、体質に関係する部分を見ているのですから、その情報は健康な人に対して使うものです。日本で言うと、健康診断などで使う情報になるわけで、すぐに医療に応用するという話にはなりません。

 これまでの世界のゲノム研究で見つかったSNPは、約1万1000ですが、その8、9割は、病気になりやすさに関係する遺伝子です。

――米国の「23 and Me」に代表されるように、一般人向けの遺伝子検査サービスはそこを見ている(『米警告「遺伝子検査やめろ」の教訓 』を参照)。

 そうです。だから、病気のなりやすさを見るビジネスが先行したわけです。

 一方、医療の対象は、患者さんであり、既に病気になった人。医療で使うには、一つには、合併症を起こす確率や死亡リスク、もう一つは、先ほどお話した薬の副作用や効果を見るためのゲノム情報が必要です。その解析を進めるには、病気になった人がその後、どうなったのか、例えば、合併症を起こしたのか、早期に死亡したのか、まだ治療を継続しているのかなどの情報も踏まえ、分析していくことが求められます。

 第3期では、そうした研究も進めます。第2期に生存調査や死因調査を実施したので、15万人の追跡データがあります。例えば、糖尿病なら糖尿病の患者さんの中で、合併症を発症した人とそうでない人を比較することで、関連する因子を調べるのが、第3期の目標の一つです。例えば、癌の治療でも標準化が進んでいますが、医療の現場では個々の患者によって治療のレベルや使っている薬が違う。治療法と予後、SNPなどとの関係が見えてくると、医療に使えるゲノム情報になるわけです。